2014年4月25日金曜日

路面店の厳しさをどう乗り越えるか

あるラグジュアリーブランドの路面店での話。
百貨店内に入ると色々と制約が出てくるが、路面店ではブランドが打ち出したいと思っているコンセプトをお客様にしっかり発信できる環境がある。 隅々までこだわった外観や内装、ゆったりとした優雅な雰囲気作り、行き届いた品揃え、特別なイベント…会社から与えられる経営資源はその分恵まれている。 しかし、当然それゆえの厳しさもある。
百貨店は基本的に立地が良く、店舗が集積しているため、入店客数もおのずと多くなる。また、百貨店ならではのイベントがある上、外商がついている富裕層も 多く、紹介もしていただきやすい。そして百貨店カードが威力を持っており、路面店で見た商品を優待がきく百貨店で購入するケースも多い。もちろんブランドとしては、お買い上げいただけるお客様は全てにおいてありがたい。しかし、店舗別に売り上げを問われる店長の立場からすると、 「せっかく時間をかけて丁寧に接客をしても、最終的に別の店舗でご購入となると残念な気持ちになる。」というのも当然である。それが続くとショップスタッフ のモラールダウンにもつながりかねない。こんな状況下で、店長はどうすべきか。
私がお会いした路面店の店長のタイプには大きく2通りある。
ひとつは、その責任と厳しさを早い段階でしっかりと自覚し、それを忍耐強くことあるごとにスタッフに浸透させ、実際に顧客化に成功しているタイプである。もうひとつは、頭では責任等を理解しているが、数字等のプレッシャーに負け、最終的にはスタッフと一緒に「この厳しい現実は会社にはわかってもらえない、 数字しか見てもらえない、こんな立地じゃお客さまは来てくださらない…」という愚痴が始まり、知らず知らず自ら店舗を沈滞ムードにリードしてしまうタイ プである。実はそういう状況下でこそ店長の、いやリーダーの真価が問われると感じる。毎日待てど暮らせど数組の接客しかできない、時間は持て余しがち、将来の不安が募る、せっかく来ていただいても空振り、通常であれば”あきらめ”の文字が頭をよぎる。それが現実である。
しかし、私がお会いしたある店長は、常に「だからこそ、実は自分との闘いなんですよ」とおっしゃった。自分の何と闘うのだろうか。店長曰く、「機会が貴重だからこそ、どうすれば着実に次につながる接客ができるのか、接客後のフォローをどうすべきなのか、自分の接客の何が足りないのか、お客様のためにどのような準備をすべきなのか、空いた時間をどう自分を高めることにつなげるのかなど、真剣に考えなければなりません。少しでも妥協すれば、雪崩のように全てダメになってしまいます。それをとにかくスタッフに理解してもらい、やってもらうことができるかどうかです。スタッフがそれでもわかってくれず不満な顔をしているのを見ると、時折心が折れそうになります。店長としての孤独感も感じます。しかし、そこであきらめたら負けです。繰り返し自分でしっかり目的に向かって計画を立て、粘り強く行動に移し、結果を深く分析し、次につながる知恵を出せるチームを作れるかどうかの闘いです。苦しい時ほど、今負けたら、この店舗を任せてもらった自分自身がリーダーとして負けたことになると自分に言い聞かせています。」
それは本当に強い信念を持ったリーダーの言葉だった。実際、その店舗には競合店ができ、さらにトラフィック減に歯止めがかからないという厳しい状況が続く中で、最終的には徐々に売り上げをV字型で挽回し、見事に顧客が定着する状況を作り上げた。誰もが「なぜそんなことができるのか?」と不思議に思う中、店長は、「特効薬を使ったわけではありません。地道にスタッフ一人一人に、絶対あきらめないこと、一つでも知恵を出してお客様に来ていただき、購入いただけるように行動すること、絶対にそれはお客様につながるということを確認し合ってきた結果です。私がこの店舗を任された最初の頃は、スタッフは暇そうで愚痴も多かったのですが、今では”色々考えてやること自体が楽しい”と言ってくれるくらい研究するようになった。そういうスタッフの成長こそが、今の数字です。私自身もこの 数ヶ月で本当に成長できたと思う。」と言った。 
存在価値=成果×困難度という公式があるが、「路面店を任されたから」といきなりあせって大きな花を咲かせることだけを考えるのではなく、冬には根を下にしっかり張ることで、時期が来たら必ず確実に大きな花が咲くように先を見すえた計画を立て、着々と手を打ち続けることの大切さに気づかされた事例だった。

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2014年4月12日土曜日

1回1回の接客の積み重ねが、世界記録につながる!

昨今はお客様のニーズも個別化しているため、接客をする際も、誰にでも話すような一般的な商品説明ではなく、お客様が何のために、何を、どうしたくて商品を見ていらっしゃるかを察知して対応しなければ、お客様の心をつかみにくい時代である。そのためにはスタッフは短時間でお客様の心を知るという難易度の高いことにチャレンジしなければならない。特にホテルやレストランとは異なり、店舗での販売となるとお客様側にも多少の警戒心はある。それだけに、さりげない「観察」から始まり、自然な会話、聞き出し、そして洞察に至る流れをスタッフ側が上手にリードする必要がある。 
確かに売れている、あるいは顧客をたくさん持っているセールススタッフはその部分が優れている人が多い。端から見ると、特別に何か変わったことをしているようには見えない。しかし、なぜかお客様は笑顔で楽しそうに会話し、購入に至るケースが多い。それはあたか も普通の人には見えない早さのボールがイチローには“止まって見える”という“動体視力”のように、特別に授かった能力のようにも見える。なぜなら、本人に聞いても、「特にすごく努力をしているわけではなく、自然と自分なりの接客スタイルとしてやっている」という答えが返ってくることが多いからである。
しかし、「なるほど、そういうものか」で終わるのか、「本人も意識していないけれど、その奥に必ず何かやっていることはあるはずだ」と考えるのかで、対応は異なる。
私がお会いした、販売成績においてあるラグジュアリーブランドの世界記録を持つ店長は、「それは天性のものではなく、意識と努力によるスキルです」と言い切った。彼女は、顧客の顔はもちろん、これまでの購入履歴や何気なくお話になったご家族構成や趣味、今楽しみにしていることなど、本当によく記憶していて、それを上手に毎回の接客で活用している。お客様がお店の前を素通りされようとしている際にも、「あら、〇〇様!今日お買い物ですか?」と声をかける。お客様が自分の名前を呼ばれて少し驚きながらも嬉しそうに反応すると、「またお待ちしてますね!」と元気良く対応する。そういう小さなことを大切にしている。そういうお客様は、数日後必ず店に立ち寄ってくださるそうだ。その際の会話でも、お客様は「本当によく私のことをわかってくれて、しかも私が忘れているようなことまでしっかり覚えていてくれて素晴らしい!」と感じる。だから、せっかく高額の物を買うなら、このくらい素敵な販売スタッフから買いたいと指名してくる。もちろんその際、彼女は的確な提案によって満足感をさらに高める。しかも彼女は一切妥協せず、いいと思ったものはトータルコーディネートで堂々とすすめる。なぜなら、お客様とのこれまでの関係から、お客様以上に、お客様がどうすればその服を着られる場面で最高になるかを理解しているという自負があるからである。

よくスタッフから、「店長は記憶力がいいですね」と言われるそうだが、彼女曰く特別に良いわけではなく、意識をしながら自分の記憶に刻んでいるという。それはある種トレーニングである。しかし、そういうトレーニングを日々の中で意識してやり続けているかいないかは、最終的には大きな違いになる。意識だけではなく、コンディションも大切であり、それを整えて接客に臨む姿勢なくしては不可能だという。早い段階から、「お客様とは一期一会であり、やり直しはできない」と接客をとらえ、その気持ちが一切色あせることなく何年も継続できていること自体が、大きなスキルや結果の違いに直結している。言い換えれば、やはりそういう心構えや努力は必ずお客様に伝わると言うことである。お客様は「プロを見抜く目」を持っており、その目はどんどん磨かれている。そういう厳しい時代である。
最後にそのラグジュアリーブランド店長が一番悔しそうに私に語ってくれた思いがとても印象に残った。 
「ある若いスタッフが、仕事と家庭の両立で悩んでいました。『自分としてはこの仕事が好きだし、もっと上を目指したいと思っている。しかし、家族からは“そんな仕事は誰でも簡単にできる仕事だから、今辞めたって、またやりたいと思えばいつでもできるよ”と言われた。安心させようという気持ちもあったと思うが、複雑だった。』と言われました。私はとても悲しい思いをしました。なぜなら、ここまでやっても接客・販売という仕事への認知はまだまだその程度なのかと。しかし、だからこそ、私たちはしっかりプロの仕事を確立すると共に、スタッフに伝えていかなくてはならないという思いを強くしました。一人でも多くの人がプロ意識を持って研究を続ければ、必ず世の中の認知も変わります。この仕事がどれだけ難しいか、そして、その分やりがいがあるのかを理解してもらうという目標を持ってさらに頑張ります。
いつお会いしても好奇心たっぷりの大きな目で見つめられると、私自身つい心を開いてしまう。単なる売り方だけでない素晴らしい人間教育も行っている店長である。

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2014年3月29日土曜日

カリスマ店長がぶつかった壁

私の中で未だに忘れられない接客がある。あるジュエリーブランドの銀座ブティックでの体験だ。
見るからにゆったりとした優雅な雰囲気を醸しだしている40代の男性スタッフで、少々位負けしてしまいそうな印象を持ってしまうが、それを裏切る謙虚な姿勢で話しかけてきてくれる。こちらのペースに合わせて決して焦らせない。その意外性がまず驚きであった。あれこれ見ながらおずおずと「このリングがシンプルで素敵ですね」とこちらからいうと、トレイの上にすっとそのリングを出して見せてくれた。そこからのトレイの上のリングの動きはまさしく魔法だった。指の動きひとつひとつがさりげないようで、リングの最も美しい角度を知っていて、リングが自ら語りるかけるかように輝きを放たせる。心地よいストーリーが耳から入ってくるが、いつの間にかそのハーモニーで目はリングの動きに釘付けになっていた。先ほども別のブティックで同じリングを見たはずなのに、全く別物としか思えない魅力を醸しだし、”こんな素敵なリングはここでしか買えない!” と思っている自分に驚いた。その瞬間すっと、「全身鏡で身につけたところをご覧いただくのが一番ですよ。」とエスコートしてくれて、それをつけた自分は別の自分になっているように思えた。「見せる」のではなく「魅せる」という接客である。
 「高額なので一度考えてみます。」と買いたい衝動をぐっと抑えて伝えると、「左様でございますね。では、私本日7時まではこちらにおりますので、それまでゆっくりお考えください。」と後余韻までしっかり考えた対応だった。数時間考えたが、「どうせ買うならあの人から買うのが一番の贅沢だ」とい う確信を強くして、お店に引き返すことになった。そのくらい心をつかむ接客だった。
 実はその人は店長で、後日研修でお会いすることになるのだが、その話をすると店長から返ってきた言葉は以下の通りだった。
「私は一言で言えば銀座のお客様に相当鍛えていただきました。銀座という場所は厳しい基準を持ったお客様ばかりです。そのお客様に認めていただ くには、普通のことをしていてはとうてい無理です。研究に研究を重ね、どうすればもっと洗練された接客になるのか、奥深い接客になるのか、そして喜んでいただける接客になるか、考え続けなければなりません。それを何十年も考えてきた結果が今のような接客スタイルになっています。私はこの銀座という場所で働 くことに誇りを感じています。もちろん観光客の方、若い方もいらっしゃいますし、そういう方からも学ぶことは多々あります。ある意味一客一客が真剣勝負だからこそ、やりがいがあります。」
まさしくアート(芸術)と感じた接客を創り出していたのは、そういう信念からだったのだと気づかされた。
ところが、残念なことに、その店舗では他のスタッフの売り上げが伸び悩んでいたのである。その理由としては以下のことが考えられる。
  1. あくまで店長だからできる接客であって「とうてい自分には真似できない」とスタッフが思い込んでいる。また、価値観が多様化する中で、そこまでの努力を必死に行うほどの動機づけができない。
  2. 店長自身も「具体的に何をどうすれば自分に近づけるのか」をステップ化して説明できない。
  3. 店長が高い売り上げを一人で上げるので、スタッフはそのフォローで満足してしまう。
  4. 店長は売り上げ責任が最優先するので、どうしても個々のスタッフのマネジメントが希薄になる。
しかし、一番の問題はある時つぶやいた店長の心の中にあった。
「お客様にご満足いただくためのパッションは長年誰にも負けないと思ってやってきました。しかし、スタッフは自分で選んで採用しているわけではなく、正直あまりに考え方が幼くて驚くこともあります。それをいちから育成するというのは私にとっては気の遠くなることです。お客様はしっかり対応すると 応えてくださるし、それが結果となって跳ね返ってくるので大きなやりがいになります。しかし、スタッフは今日注意したことが、明日できていない。、時折むな しくなります。本当のところ、販売に向かっている方が自分らしくやれます。私は店長には向かないのかもしれません。」
自分と異なる価値観・スキルのスタッフを育成する仕事は、“忍耐”が伴う上に感情も入り込んでくるため、ケースによっては大きなストレスともなる。お客様は“合わない”となれば、相互に離れられるが、スタッフとの関係はそう簡単にいかない。カリスマであればあるほど求める基準が高い分、その ギャップが大きいのではないだろうか。しかし、店長自身も最初からカリスマ的に売れたわけではなく、努力した結果であると同様、育成も最初からうまくいくのではなく、研究を重ねることが必要である。それができるかどうかは、最終的に店長の育成に対する「パッション(情熱)」が影響する。店長はカリスマ販売員としての自分のビジョンは 鮮明に描けるが、スタッフが生き生きと働くビジョンを描けないまま店長業務を行っていることで、自分の中に大きな葛藤を抱えてしまった。店長になるには、やはりそれだけの“覚悟”が必要なのだと改めて気づかされたつぶやきだった。

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2014年3月23日日曜日

ファンづくりの努力があってこそ、お客様との価値共創が可能になる!

これまでの販売の仕方は「売り手」と「買い手」の関係をどう良好にし、スムーズに買っていただけるかを前提にしてきた。しかし、今やお客様の方が早く、豊富な情報を持っていることが多い時代である。「商品についての良さをわからせる」ことを前提に、商品知識を勉強し、説明トークを練習するだけでは、結果的に”押しつけ”になってしまうこともしばしばある。もちろん、プレゼンテーションはいつの時代も必要であることに変わりはないが、お客様との関係性のとらえ方をさらに進めて考えると、同じプレゼンテーションももっと威力を持つ。


では、どのような関係ととらえればよいのか?新しい関係性とは、「売り手」「買い手」の関係ではなく、お互いに同じ目的に向かって異なる強みを発揮し合い、さらに新しい価値を生み出す大切なパートナーというとらえ方といえる。例えば、コーヒーにこだわりを持つお客様がいらっしゃるとする。同時に、専門店として素材、製法、提案の仕方にこだわりを持つコーヒー店があるとする。お互いに「こだわりをもって、よりおいしくコーヒーを飲みたい」という目的は一致する。コーヒー店のスタッフは、「最高の状態で飲むには」ということは知っているから、その情報を提供する。しかし、本当の意味でどのようなシチュエーションで、どのように飲むとどのように感じるかのバリエーションは、お客様の方が知っている。いわゆる、仮説に対する〈検証結果〉をより豊富に持つのは、実は提供側以上に、使用する側であったりする。


しかし、「売り手」「買い手」の関係だけでは、販売する時点が関係性のピークとなる恐れがある。実際に使用してどうなのか?こちらが思う以上の使い方や価値の生み方があるのか?そこまでの興味を持てば、実は販売したところからが本当のパートナー関係造りの重要なステップとなる。ただし、一方的に「使ってみてどうでしたか?教えてください」と情報をとろうとするだけでは、わざわざそれを説明しなければならないお客様にとって、負担はあってもメリットは少ない。「実際に使用してどうなのか?どのようなバリエーションがあるのかを積極的に提供したい、あるいは提供するともっといいことがある」という魅力を感じていただく必要がある。
その関係性が構築できてはじめて「価値共創のパートナー」となれる。


私が以前お世話になったあるラグジュアリーブランドの店長は、そういう関係性を財産と考え販売前、販売時、販売後も丁寧にお客様とやりとりをしてきた。以下はその店長のお話である。
「高級なバッグを販売する以上、最高の状態で使用していただきたいと思っています。ただし、素材が”革”である以上生き物なので、使い方、しまい方ひとつでもこちらが想定する以上の色々なケースが発生します。だから、私たちはお客様が実際にどのように使用され、どのように感じられるかを大切にする必要があります。もちろん、販売する時に取り扱いの注意点は説明はしますが、バッグのためにお客様が生活されているわけではない。だから何か思いがけないことがあってお客様が相談されてきたときにこそ、いろいろ知るチャンスがあります。『なぜ、こんなシミになるの?なぜ色が落ちてくるの?なぜこのプリントが落ちないの?』それらは、貴重な事例になります。もちろん〈品質管理〉の部署に問い合わせて、会社としての回答を用意はします。しかし、それで処理したと考えるのは怖いことです。私は、自分が購入した自社のバッグでお客様と同じような使い方を試してみることがあります。そのような使い方をするとどういうことが起こるのか、それはなぜなのか?どのような回復策が考えられるのか?であれば、どのような提案を先にお客様にすれば良いのか?それは、次に別のお客様に提案させていただくときにとても大切な情報になります。お客様が丁寧に教えてくださらなければ見過ごしてしまうことかもしれません。販売した後も、いえむしろ販売したところから関係性が始まると思っていただいているからこそ、使用した後のきめ細かな情報がいただけることに感謝してます。」


会社から「固定客を〇人つくるように」と指示をされ、どうしたら高額品を買っていただけるか、どうしたら再購入していただけるかだけに関心を払っていては生まれてこない発想である。ラグジュアリーブランドによっては「生涯にわたってお使いいただけます」とという言葉をスタッフが販売時に発している。ただしそれが単に「丈夫」「メンテナンスができます」というレベルのセールストークであるなら悲しい。その真髄は〈お客様の生涯のいろいろな場面で起こりうることを共有し、共にどうあるべきかを考えることで、さらに新しい、あるいはユニークな価値を生み出していく会社ですいう姿勢を伝えているという自覚があってこそ、ブランドとしてさらなる価値を生み出せるのではないだろうか。

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2014年2月9日日曜日

顧客志向を浸透させるブランド店長の視点(2)

「お客様第一主義、顧客主義」と言われるが、一体私たちにとってお客様とはどういう存在だろうか?それについて考えさせられるエピソードを2つ紹介したい。


①給与は誰から?
ある新卒スタッフの体験談から。
「配属されて数か月はとにかく業務を覚えるのに必死で、どのように時間がたったのかも覚えていません。とにかく先輩の指示に忠実に従わなければならないという 事だけを考えてやっていました。接客にしても、ゆとりがないため、きちんとマニュアル通り商品説明ができたか、金銭授受は正確か、あいさつ等はきれいに見 えているか、など先輩からダメだしされないように気を遣っていました。日々それを繰り返すうちに、徐々に板についてきて、ある程度そつなく接客ができるようになりました。無事試用期間も終え、あとはこれを繰り返していけばいいんだとほっとした頃です。月末近くに店長に呼ばれました。何か問題を起こしたのかと内心不安でしたが、店長から意外なことを言われました。
『この数か月大変お疲れ様です。しっかり業務も覚え接客も安心できるようになってきました。今日は、実はあなたにお客様からのプレゼントがあるので、それを渡したいと思って来てもらいました。
「お客様からのプレゼント」と言われても、まだ顧客が創れたわけではないし、思い当たることがありません。怪訝そうに店長を見ると、笑って手渡してくれたのは「給与明細」でした。
『意外そうな顔をしていますが、私たちのお給料は全てお客様からいただいています。こんな素敵な店舗で仕事ができるのも、商品が揃えられるのも、きれいな ショッパーで商品をお渡しできるのも、全てご来店いただき、ご購入いただいたお客様のお金から出ています。そういう意味でこのお店もお客様のものですし、 お客様にとって最高の状態にすることを私たちは期待されています。先日研修に行っていろいろと学んだと思いますが、そのお金も全てお客様から出ています。ですから、その結果はお客様にきちんとお返ししないといけないと思いませんか?先輩の指示通り動けるようになったから良かったというのは一段階目で、最終 的にはそれを日々お客様にお返しできているかを考えて仕事をしてみましょう。それが必ず結果として返ってきます。来月もお客様から「喜んで払うよ」と言っ ていただける仕事を一緒にしていきましょう。』
「こんなに働いているのに給与が安いから真剣に働く気がしない」という言葉もよく耳にする中で、給与の源泉は日々お客様ときちんと向き合う中にしかないという店長の言葉によって、プロとしての心構えについて考えさせられました。」


②お客様は何を求めて店舗に来られるのか。
3年前、東日本大震災の被害を受けたあるブティック。これだけの被災者が出ている中で、贅沢品であるラグジュアリーブランドの店舗を早々オープンすることは、会社・店舗としても判断に苦しむところである。スタッフの中にも、多少ではあるが家が半壊した人もいる。それでも店舗を開けるということは「そんなに売り上げが欲しいのか」と思われても仕方がないという側面もある。店長としても心苦しい状況である。会社から指示が来た時、店長はそれをストレートにスタッフに伝えた。
「私たちが提供している商品は、この状況下で生活に必須のものではありません。むしろ、『なぜこんな時にそんな悠長なことをしているのか』という厳しい意見をいただくことが多いかもしれません。ですから、率直に『そんな状態ではとても笑顔で接客などできない、働く自信がない』ということは言ってください。それをふまえて、私自身どうすれば良いのかを考えて対応します。」
しかし、スタッフからは予想と反する答えが返ってきた。
「お店を開けるのであれば出勤させてください。正直、家で待機しろと言われるのが一番つらいんです。ネガティブなことばかり考えて、本当に落ち込みます。少しでも何かをしているとか、必要とされている方が心に張りが出ます。」
その言葉を受けて、店舗は再開した。しかし、どうやって笑顔をつくればよいのか。それは思った以上に難しいことだった。作り笑顔は通用しない、かといって強 張った顔でもいけない。店長が悩んだ末に出した結論は、「販売することではなく、とにかくご来店いただいたことへの感謝に徹しましょう。それと、少しでもお客様の心を照らすようにおもてなししましょう。それだけを考えて一組一組できることをしましょう。」いざふたを開けてみると、様々なお客様模様を見ることとなった。
「ここへ来ることを近所の人に知られたら不謹慎と思われるかもしれないけれど、本当に毎日荒んだ光景を見ていると心が潰れそうになる。少しでも現実を忘れたく て」という方もいれば、「結局このバッグがあの子の形見になった。修理できるかしら。」というお客様もいらっしゃる。時に一緒に涙することもある。しかし、その誠実さがお客様の心にしみたのか「お店を開けてくれてありがとう」「今日ここへ寄って本当に良かった」という言葉をたくさんいただけた。
店長いわく、「何事もなかったときは来ていただいて当たり前とどこかで思っていました。しかし今回のことがあって、私たちはお客様にとって単に商品を販売す る場所ではなく、それ以上の関係でなければならないと強く思いまいた。意味がある体験でした。地域に根を張れる店舗にしていくために、また一から頑張りま す。」

お客様がどういう存在であるか、スタッフがどういう存在であるかは、実はいざという時でないとわからないという側面がある。人生は山あり谷ありだが、谷があるからこそ本当のありがたみに気づけるのも事実である。そしてそれが本当の意味の顧客志向につながっていく。

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2014年1月23日木曜日

顧客志向を浸透させるブランド店長の視点(1)

多くの組織が「顧客第一主義」や「CS(顧客満足)の追求」を掲げ、顧客の獲得や囲い込みにエネルギーを注いでいる。確かに、顧客ニーズをしっかりとらえて高い満足を提供することで、評価が上がり、業績がアップするだけでなく、“ブランド(信頼)”を構築している組織も多い。しかし、その一方で、偽装問題が次々発覚するなど、「どうせこの程度のことは顧客にはわからない」という見方がまだまだ残っているのも事実である。
ラグジュアリーブランド業界は、その製品品質においては顧客に期待を持たせているだけに、裏切り行為は致命傷になる。優れたブランドは、その製造工程を大切 にし、検品を重ね、万一製品不良が発生すれば即フィードバックされる体制を確立している。表から見ても、裏から見ても透明にしておくことが最大の保険なのである。しかし、それを提供する店舗の“スタッフによる対応”は、お客様や状況が個々異なるため、当然違いが生まれる。顧客が求めるサービス基準自体が相当高くなっているだけに、それをクリアしつづけ、トータルの高い満足を提供するためには、継続的に指導・育成・見守り・ フォローなど、手をかけることが大切になる。それも表面的テクニックではなく、「心からお客様に喜んでご購入いただきたい」という考えを風土にするには、ブランド店長の役割は大きい。なぜならブランド店長自身の信念こそが店舗の風土に直結するからである。

あるラグジュアリーブランドのスタッフが「本当に店長の姿勢には頭が下がるというか、気づかされることばかりです。自分の至らなさを痛感します。」という感想をもらしたので、その理由を聞いてみた。すると以下のようなエピソードを教えてくれた。
ある応対クレームが発生し、それがこじれてしまった。結果的にこちらが非を認め、当のスタッフと店長とがお客様のご自宅まで謝罪に行かなければならなかった。ところがその日は氷雨。そしてお客様のご自宅へは片道2時間かかった。到着しても、最初はお怒りで会っていただけず、寒い中30分ほど待たされた。スタッフは心の中で「嫌なお客にあたったな」と、正直思った。最終的には、店長がきちんと対応したことで許していただけ、また2時間かけて帰ってきた。家に着いたのは深夜だった。店長の手を煩わせて申し訳ないと本当に落ち込み、翌日店長に謝罪した。その際、店長から返ってきたのは意外な答えだった。
「私に謝罪する必要はありません。むしろ、その謝罪をお客様に心からできていましたか?寒い中、2時間もかけて行ったのに…という気持ちはありませんでしたか?昔なら私もそう思ったと思います。でも昨日は、『このお客様はわざわざ片道2時間もかけてうちのお店に足を運んでくださったのだな、その間きっといい買い物をしたいと思っておられたのに、帰りの2時間は本当にお怒りの辛い時間だっただろうな。それを30分 で許していただけて、逆に感謝しかない。このことをしっかり生かしていかないと本当にお客様に申し訳ない。』と思いました。そういうことを改めて気づかせ てもらえたのは、今回のクレームのおかげです。あなたもいい勉強になったと思いますが、私自身も店長として至らない点を気づかせてもらえて本当によかったです。これを機にまた一緒に頑張りましょう。」
スタッフいわく、「プロとして店頭に立つ心構えの浅さを痛感しました。お客様をおもてなしするとは、そのお客様の背景までしっかり受け止めようとする姿勢からなんだと思いました。いい勉強をさせていただきました。」

何事もきれいごとで終わらせないためには、やはり生きた教材、生きた教育が効果を発揮する。ブランドのアトリエが素晴らしい製品を生み出すように、店舗ではブランド店長が日々優れたサービス提供者を生み出しているのだと考えさせられるエピソードだった。


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2014年1月21日火曜日

ブランド店長の“求心力”を高めるこつ

私が20数年前に初めてラグジュアリーブランド業界での仕事に携わった時、まだまだ 店舗規模も小さく、特定の富裕層向けの間口の狭いビジネスであった。私自身店舗の敷居をまたぐのは恐怖に近い感覚を持ったくらい、中で何が待ち受けている のか外からも見えにくい雰囲気だったことを覚えている。また、当時は店長の権限は絶対で、今の時代のように指示に逆らうなど考えられないことだった。スタッフが店長の前で緊張しながら作業しているのを見て、「宝塚歌劇団のような世界だ」という印象を持ったのを覚えている。
店舗風土とは恐ろしいもので、学生時代まではのびのび育ってきたスタッフが、入社してしばらくすると本当に従順に命令に従うようになる。もちろん不満も持っていたと思うが、最終的には「社会、会社とはそういうものだ」という考えに落ち着く。
今でも印象に残っているが、あるスタッフが先輩の仕事ぶりを見て「もっとこうすれば効率よくできるのに、なぜあえて無駄なことをしているのだろう?」という 素朴な疑問から、質問してみた。すると「私はこのように教わったの。だからあなたもこのようにしなさい。」という言葉が返ってきた。それでも納得いかないため、複数回質問をしたところ、店長から呼ばれ、「一言言っておきますね。この店舗では“なぜ”という言葉はいりません。言われた通り やればいいんです。」と言われた。私には衝撃的な言葉だった。しかし、スタッフは「やってはいけないことをしてしまった!」と感じる。その後、彼女は自分 から「なぜ?」を聞くことは無くなった。慣れてしまえばそれが最も楽な道だった。1年後、新人を指導する際に、忘れていた「なぜ?」を逆に質問された。彼女はとっさに「おそらく~だと思うけれど、私以外の先輩にそういう質問をしてはいけません。」と伝えていた。
このエピソードから、ブランド店舗にとって、当時「統制」「秩序」「しつけ」が相当重要視されていたことがわかる。「富裕層のお客様に恥ずかしくないマナー、サービスができる優れた店舗を創らなければならない。ゆえに若いスタッフが勝手な行動をとったり、至らない敬語を使ったり、雑な対応をすることは店 長のプライドに賭けて許してはいけない」という使命感すら感じる。それこそが「お客様にとってご満足いただける優れたサービス」と考えていたのだろう。当時、研修時にスタッフの意識調査を行った結果、まさに店舗マネジメントのあり方をそのまま投影する結果になった。すなわち、統制型の店長の店のスタッフは 「成長欲求」が低く、「ルール遵守」等が異様に高い。逆にスタッフとのコミュニケーションを重視するタイプの店長の元で働くスタッフは「成長欲求」「チー ムワーク意識」「成果意識」等がバランスよく高い傾向にあった。それが、マネージャー層にとって危機感となったこと、また、時代の流れもあって統制型店長は徐々に姿を消した。今やコーチングが重視される時代である。また、パワハラと いう言葉も出てきた。店長は部下を尊重し、粘り強く意見を吸い上げることを求められる。しかし、それが行き過ぎて、統制がきかなくなる、しつけが行き届か ないなどの事象も一部で発生するなど、時計の振り子のようなことが起こり、店長のストレス度も高い。本来正しい導き方とは、根幹に「ブランドミッション、ブランドビジョン、自分たちのあり方」が統合されているところからスタートする。まずはそれがしっかりできるように指導することが成功の道であるが、それが中途半端なまま表面的な対応に走っているケースもある。

「わかっているはず」「伝えているつもり」ではなく、繰り返し反復し、その重要性を「なぜ?なぜ?」で考えさせることがブランドを強くし、店長の求心力を高める道である。そこだけはブランド店長は妥協してはいけない。それができている店舗のスタッフは、良い意味での誇りやプライドが感じられ、それによって自己統制ができている。
あなたの店舗はいかがだろうか?

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サービスデザイン研究所
Service Design Institute
代表取締役/サービスデザイナー 袋井 泰江(Fukuroi Yasuko)













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