2014年1月23日木曜日

顧客志向を浸透させるブランド店長の視点(1)

多くの組織が「顧客第一主義」や「CS(顧客満足)の追求」を掲げ、顧客の獲得や囲い込みにエネルギーを注いでいる。確かに、顧客ニーズをしっかりとらえて高い満足を提供することで、評価が上がり、業績がアップするだけでなく、“ブランド(信頼)”を構築している組織も多い。しかし、その一方で、偽装問題が次々発覚するなど、「どうせこの程度のことは顧客にはわからない」という見方がまだまだ残っているのも事実である。
ラグジュアリーブランド業界は、その製品品質においては顧客に期待を持たせているだけに、裏切り行為は致命傷になる。優れたブランドは、その製造工程を大切 にし、検品を重ね、万一製品不良が発生すれば即フィードバックされる体制を確立している。表から見ても、裏から見ても透明にしておくことが最大の保険なのである。しかし、それを提供する店舗の“スタッフによる対応”は、お客様や状況が個々異なるため、当然違いが生まれる。顧客が求めるサービス基準自体が相当高くなっているだけに、それをクリアしつづけ、トータルの高い満足を提供するためには、継続的に指導・育成・見守り・ フォローなど、手をかけることが大切になる。それも表面的テクニックではなく、「心からお客様に喜んでご購入いただきたい」という考えを風土にするには、ブランド店長の役割は大きい。なぜならブランド店長自身の信念こそが店舗の風土に直結するからである。

あるラグジュアリーブランドのスタッフが「本当に店長の姿勢には頭が下がるというか、気づかされることばかりです。自分の至らなさを痛感します。」という感想をもらしたので、その理由を聞いてみた。すると以下のようなエピソードを教えてくれた。
ある応対クレームが発生し、それがこじれてしまった。結果的にこちらが非を認め、当のスタッフと店長とがお客様のご自宅まで謝罪に行かなければならなかった。ところがその日は氷雨。そしてお客様のご自宅へは片道2時間かかった。到着しても、最初はお怒りで会っていただけず、寒い中30分ほど待たされた。スタッフは心の中で「嫌なお客にあたったな」と、正直思った。最終的には、店長がきちんと対応したことで許していただけ、また2時間かけて帰ってきた。家に着いたのは深夜だった。店長の手を煩わせて申し訳ないと本当に落ち込み、翌日店長に謝罪した。その際、店長から返ってきたのは意外な答えだった。
「私に謝罪する必要はありません。むしろ、その謝罪をお客様に心からできていましたか?寒い中、2時間もかけて行ったのに…という気持ちはありませんでしたか?昔なら私もそう思ったと思います。でも昨日は、『このお客様はわざわざ片道2時間もかけてうちのお店に足を運んでくださったのだな、その間きっといい買い物をしたいと思っておられたのに、帰りの2時間は本当にお怒りの辛い時間だっただろうな。それを30分 で許していただけて、逆に感謝しかない。このことをしっかり生かしていかないと本当にお客様に申し訳ない。』と思いました。そういうことを改めて気づかせ てもらえたのは、今回のクレームのおかげです。あなたもいい勉強になったと思いますが、私自身も店長として至らない点を気づかせてもらえて本当によかったです。これを機にまた一緒に頑張りましょう。」
スタッフいわく、「プロとして店頭に立つ心構えの浅さを痛感しました。お客様をおもてなしするとは、そのお客様の背景までしっかり受け止めようとする姿勢からなんだと思いました。いい勉強をさせていただきました。」

何事もきれいごとで終わらせないためには、やはり生きた教材、生きた教育が効果を発揮する。ブランドのアトリエが素晴らしい製品を生み出すように、店舗ではブランド店長が日々優れたサービス提供者を生み出しているのだと考えさせられるエピソードだった。


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2014年1月21日火曜日

ブランド店長の“求心力”を高めるこつ

私が20数年前に初めてラグジュアリーブランド業界での仕事に携わった時、まだまだ 店舗規模も小さく、特定の富裕層向けの間口の狭いビジネスであった。私自身店舗の敷居をまたぐのは恐怖に近い感覚を持ったくらい、中で何が待ち受けている のか外からも見えにくい雰囲気だったことを覚えている。また、当時は店長の権限は絶対で、今の時代のように指示に逆らうなど考えられないことだった。スタッフが店長の前で緊張しながら作業しているのを見て、「宝塚歌劇団のような世界だ」という印象を持ったのを覚えている。
店舗風土とは恐ろしいもので、学生時代まではのびのび育ってきたスタッフが、入社してしばらくすると本当に従順に命令に従うようになる。もちろん不満も持っていたと思うが、最終的には「社会、会社とはそういうものだ」という考えに落ち着く。
今でも印象に残っているが、あるスタッフが先輩の仕事ぶりを見て「もっとこうすれば効率よくできるのに、なぜあえて無駄なことをしているのだろう?」という 素朴な疑問から、質問してみた。すると「私はこのように教わったの。だからあなたもこのようにしなさい。」という言葉が返ってきた。それでも納得いかないため、複数回質問をしたところ、店長から呼ばれ、「一言言っておきますね。この店舗では“なぜ”という言葉はいりません。言われた通り やればいいんです。」と言われた。私には衝撃的な言葉だった。しかし、スタッフは「やってはいけないことをしてしまった!」と感じる。その後、彼女は自分 から「なぜ?」を聞くことは無くなった。慣れてしまえばそれが最も楽な道だった。1年後、新人を指導する際に、忘れていた「なぜ?」を逆に質問された。彼女はとっさに「おそらく~だと思うけれど、私以外の先輩にそういう質問をしてはいけません。」と伝えていた。
このエピソードから、ブランド店舗にとって、当時「統制」「秩序」「しつけ」が相当重要視されていたことがわかる。「富裕層のお客様に恥ずかしくないマナー、サービスができる優れた店舗を創らなければならない。ゆえに若いスタッフが勝手な行動をとったり、至らない敬語を使ったり、雑な対応をすることは店 長のプライドに賭けて許してはいけない」という使命感すら感じる。それこそが「お客様にとってご満足いただける優れたサービス」と考えていたのだろう。当時、研修時にスタッフの意識調査を行った結果、まさに店舗マネジメントのあり方をそのまま投影する結果になった。すなわち、統制型の店長の店のスタッフは 「成長欲求」が低く、「ルール遵守」等が異様に高い。逆にスタッフとのコミュニケーションを重視するタイプの店長の元で働くスタッフは「成長欲求」「チー ムワーク意識」「成果意識」等がバランスよく高い傾向にあった。それが、マネージャー層にとって危機感となったこと、また、時代の流れもあって統制型店長は徐々に姿を消した。今やコーチングが重視される時代である。また、パワハラと いう言葉も出てきた。店長は部下を尊重し、粘り強く意見を吸い上げることを求められる。しかし、それが行き過ぎて、統制がきかなくなる、しつけが行き届か ないなどの事象も一部で発生するなど、時計の振り子のようなことが起こり、店長のストレス度も高い。本来正しい導き方とは、根幹に「ブランドミッション、ブランドビジョン、自分たちのあり方」が統合されているところからスタートする。まずはそれがしっかりできるように指導することが成功の道であるが、それが中途半端なまま表面的な対応に走っているケースもある。

「わかっているはず」「伝えているつもり」ではなく、繰り返し反復し、その重要性を「なぜ?なぜ?」で考えさせることがブランドを強くし、店長の求心力を高める道である。そこだけはブランド店長は妥協してはいけない。それができている店舗のスタッフは、良い意味での誇りやプライドが感じられ、それによって自己統制ができている。
あなたの店舗はいかがだろうか?

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代表取締役/サービスデザイナー 袋井 泰江(Fukuroi Yasuko)













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