2014年2月9日日曜日

顧客志向を浸透させるブランド店長の視点(2)

「お客様第一主義、顧客主義」と言われるが、一体私たちにとってお客様とはどういう存在だろうか?それについて考えさせられるエピソードを2つ紹介したい。


①給与は誰から?
ある新卒スタッフの体験談から。
「配属されて数か月はとにかく業務を覚えるのに必死で、どのように時間がたったのかも覚えていません。とにかく先輩の指示に忠実に従わなければならないという 事だけを考えてやっていました。接客にしても、ゆとりがないため、きちんとマニュアル通り商品説明ができたか、金銭授受は正確か、あいさつ等はきれいに見 えているか、など先輩からダメだしされないように気を遣っていました。日々それを繰り返すうちに、徐々に板についてきて、ある程度そつなく接客ができるようになりました。無事試用期間も終え、あとはこれを繰り返していけばいいんだとほっとした頃です。月末近くに店長に呼ばれました。何か問題を起こしたのかと内心不安でしたが、店長から意外なことを言われました。
『この数か月大変お疲れ様です。しっかり業務も覚え接客も安心できるようになってきました。今日は、実はあなたにお客様からのプレゼントがあるので、それを渡したいと思って来てもらいました。
「お客様からのプレゼント」と言われても、まだ顧客が創れたわけではないし、思い当たることがありません。怪訝そうに店長を見ると、笑って手渡してくれたのは「給与明細」でした。
『意外そうな顔をしていますが、私たちのお給料は全てお客様からいただいています。こんな素敵な店舗で仕事ができるのも、商品が揃えられるのも、きれいな ショッパーで商品をお渡しできるのも、全てご来店いただき、ご購入いただいたお客様のお金から出ています。そういう意味でこのお店もお客様のものですし、 お客様にとって最高の状態にすることを私たちは期待されています。先日研修に行っていろいろと学んだと思いますが、そのお金も全てお客様から出ています。ですから、その結果はお客様にきちんとお返ししないといけないと思いませんか?先輩の指示通り動けるようになったから良かったというのは一段階目で、最終 的にはそれを日々お客様にお返しできているかを考えて仕事をしてみましょう。それが必ず結果として返ってきます。来月もお客様から「喜んで払うよ」と言っ ていただける仕事を一緒にしていきましょう。』
「こんなに働いているのに給与が安いから真剣に働く気がしない」という言葉もよく耳にする中で、給与の源泉は日々お客様ときちんと向き合う中にしかないという店長の言葉によって、プロとしての心構えについて考えさせられました。」


②お客様は何を求めて店舗に来られるのか。
3年前、東日本大震災の被害を受けたあるブティック。これだけの被災者が出ている中で、贅沢品であるラグジュアリーブランドの店舗を早々オープンすることは、会社・店舗としても判断に苦しむところである。スタッフの中にも、多少ではあるが家が半壊した人もいる。それでも店舗を開けるということは「そんなに売り上げが欲しいのか」と思われても仕方がないという側面もある。店長としても心苦しい状況である。会社から指示が来た時、店長はそれをストレートにスタッフに伝えた。
「私たちが提供している商品は、この状況下で生活に必須のものではありません。むしろ、『なぜこんな時にそんな悠長なことをしているのか』という厳しい意見をいただくことが多いかもしれません。ですから、率直に『そんな状態ではとても笑顔で接客などできない、働く自信がない』ということは言ってください。それをふまえて、私自身どうすれば良いのかを考えて対応します。」
しかし、スタッフからは予想と反する答えが返ってきた。
「お店を開けるのであれば出勤させてください。正直、家で待機しろと言われるのが一番つらいんです。ネガティブなことばかり考えて、本当に落ち込みます。少しでも何かをしているとか、必要とされている方が心に張りが出ます。」
その言葉を受けて、店舗は再開した。しかし、どうやって笑顔をつくればよいのか。それは思った以上に難しいことだった。作り笑顔は通用しない、かといって強 張った顔でもいけない。店長が悩んだ末に出した結論は、「販売することではなく、とにかくご来店いただいたことへの感謝に徹しましょう。それと、少しでもお客様の心を照らすようにおもてなししましょう。それだけを考えて一組一組できることをしましょう。」いざふたを開けてみると、様々なお客様模様を見ることとなった。
「ここへ来ることを近所の人に知られたら不謹慎と思われるかもしれないけれど、本当に毎日荒んだ光景を見ていると心が潰れそうになる。少しでも現実を忘れたく て」という方もいれば、「結局このバッグがあの子の形見になった。修理できるかしら。」というお客様もいらっしゃる。時に一緒に涙することもある。しかし、その誠実さがお客様の心にしみたのか「お店を開けてくれてありがとう」「今日ここへ寄って本当に良かった」という言葉をたくさんいただけた。
店長いわく、「何事もなかったときは来ていただいて当たり前とどこかで思っていました。しかし今回のことがあって、私たちはお客様にとって単に商品を販売す る場所ではなく、それ以上の関係でなければならないと強く思いまいた。意味がある体験でした。地域に根を張れる店舗にしていくために、また一から頑張りま す。」

お客様がどういう存在であるか、スタッフがどういう存在であるかは、実はいざという時でないとわからないという側面がある。人生は山あり谷ありだが、谷があるからこそ本当のありがたみに気づけるのも事実である。そしてそれが本当の意味の顧客志向につながっていく。

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サービスデザイン研究所
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代表取締役/サービスデザイナー 袋井 泰江(Fukuroi Yasuko)













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