2014年4月25日金曜日

路面店の厳しさをどう乗り越えるか

あるラグジュアリーブランドの路面店での話。
百貨店内に入ると色々と制約が出てくるが、路面店ではブランドが打ち出したいと思っているコンセプトをお客様にしっかり発信できる環境がある。 隅々までこだわった外観や内装、ゆったりとした優雅な雰囲気作り、行き届いた品揃え、特別なイベント…会社から与えられる経営資源はその分恵まれている。 しかし、当然それゆえの厳しさもある。
百貨店は基本的に立地が良く、店舗が集積しているため、入店客数もおのずと多くなる。また、百貨店ならではのイベントがある上、外商がついている富裕層も 多く、紹介もしていただきやすい。そして百貨店カードが威力を持っており、路面店で見た商品を優待がきく百貨店で購入するケースも多い。もちろんブランドとしては、お買い上げいただけるお客様は全てにおいてありがたい。しかし、店舗別に売り上げを問われる店長の立場からすると、 「せっかく時間をかけて丁寧に接客をしても、最終的に別の店舗でご購入となると残念な気持ちになる。」というのも当然である。それが続くとショップスタッフ のモラールダウンにもつながりかねない。こんな状況下で、店長はどうすべきか。
私がお会いした路面店の店長のタイプには大きく2通りある。
ひとつは、その責任と厳しさを早い段階でしっかりと自覚し、それを忍耐強くことあるごとにスタッフに浸透させ、実際に顧客化に成功しているタイプである。もうひとつは、頭では責任等を理解しているが、数字等のプレッシャーに負け、最終的にはスタッフと一緒に「この厳しい現実は会社にはわかってもらえない、 数字しか見てもらえない、こんな立地じゃお客さまは来てくださらない…」という愚痴が始まり、知らず知らず自ら店舗を沈滞ムードにリードしてしまうタイ プである。実はそういう状況下でこそ店長の、いやリーダーの真価が問われると感じる。毎日待てど暮らせど数組の接客しかできない、時間は持て余しがち、将来の不安が募る、せっかく来ていただいても空振り、通常であれば”あきらめ”の文字が頭をよぎる。それが現実である。
しかし、私がお会いしたある店長は、常に「だからこそ、実は自分との闘いなんですよ」とおっしゃった。自分の何と闘うのだろうか。店長曰く、「機会が貴重だからこそ、どうすれば着実に次につながる接客ができるのか、接客後のフォローをどうすべきなのか、自分の接客の何が足りないのか、お客様のためにどのような準備をすべきなのか、空いた時間をどう自分を高めることにつなげるのかなど、真剣に考えなければなりません。少しでも妥協すれば、雪崩のように全てダメになってしまいます。それをとにかくスタッフに理解してもらい、やってもらうことができるかどうかです。スタッフがそれでもわかってくれず不満な顔をしているのを見ると、時折心が折れそうになります。店長としての孤独感も感じます。しかし、そこであきらめたら負けです。繰り返し自分でしっかり目的に向かって計画を立て、粘り強く行動に移し、結果を深く分析し、次につながる知恵を出せるチームを作れるかどうかの闘いです。苦しい時ほど、今負けたら、この店舗を任せてもらった自分自身がリーダーとして負けたことになると自分に言い聞かせています。」
それは本当に強い信念を持ったリーダーの言葉だった。実際、その店舗には競合店ができ、さらにトラフィック減に歯止めがかからないという厳しい状況が続く中で、最終的には徐々に売り上げをV字型で挽回し、見事に顧客が定着する状況を作り上げた。誰もが「なぜそんなことができるのか?」と不思議に思う中、店長は、「特効薬を使ったわけではありません。地道にスタッフ一人一人に、絶対あきらめないこと、一つでも知恵を出してお客様に来ていただき、購入いただけるように行動すること、絶対にそれはお客様につながるということを確認し合ってきた結果です。私がこの店舗を任された最初の頃は、スタッフは暇そうで愚痴も多かったのですが、今では”色々考えてやること自体が楽しい”と言ってくれるくらい研究するようになった。そういうスタッフの成長こそが、今の数字です。私自身もこの 数ヶ月で本当に成長できたと思う。」と言った。 
存在価値=成果×困難度という公式があるが、「路面店を任されたから」といきなりあせって大きな花を咲かせることだけを考えるのではなく、冬には根を下にしっかり張ることで、時期が来たら必ず確実に大きな花が咲くように先を見すえた計画を立て、着々と手を打ち続けることの大切さに気づかされた事例だった。

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2014年4月12日土曜日

1回1回の接客の積み重ねが、世界記録につながる!

昨今はお客様のニーズも個別化しているため、接客をする際も、誰にでも話すような一般的な商品説明ではなく、お客様が何のために、何を、どうしたくて商品を見ていらっしゃるかを察知して対応しなければ、お客様の心をつかみにくい時代である。そのためにはスタッフは短時間でお客様の心を知るという難易度の高いことにチャレンジしなければならない。特にホテルやレストランとは異なり、店舗での販売となるとお客様側にも多少の警戒心はある。それだけに、さりげない「観察」から始まり、自然な会話、聞き出し、そして洞察に至る流れをスタッフ側が上手にリードする必要がある。 
確かに売れている、あるいは顧客をたくさん持っているセールススタッフはその部分が優れている人が多い。端から見ると、特別に何か変わったことをしているようには見えない。しかし、なぜかお客様は笑顔で楽しそうに会話し、購入に至るケースが多い。それはあたか も普通の人には見えない早さのボールがイチローには“止まって見える”という“動体視力”のように、特別に授かった能力のようにも見える。なぜなら、本人に聞いても、「特にすごく努力をしているわけではなく、自然と自分なりの接客スタイルとしてやっている」という答えが返ってくることが多いからである。
しかし、「なるほど、そういうものか」で終わるのか、「本人も意識していないけれど、その奥に必ず何かやっていることはあるはずだ」と考えるのかで、対応は異なる。
私がお会いした、販売成績においてあるラグジュアリーブランドの世界記録を持つ店長は、「それは天性のものではなく、意識と努力によるスキルです」と言い切った。彼女は、顧客の顔はもちろん、これまでの購入履歴や何気なくお話になったご家族構成や趣味、今楽しみにしていることなど、本当によく記憶していて、それを上手に毎回の接客で活用している。お客様がお店の前を素通りされようとしている際にも、「あら、〇〇様!今日お買い物ですか?」と声をかける。お客様が自分の名前を呼ばれて少し驚きながらも嬉しそうに反応すると、「またお待ちしてますね!」と元気良く対応する。そういう小さなことを大切にしている。そういうお客様は、数日後必ず店に立ち寄ってくださるそうだ。その際の会話でも、お客様は「本当によく私のことをわかってくれて、しかも私が忘れているようなことまでしっかり覚えていてくれて素晴らしい!」と感じる。だから、せっかく高額の物を買うなら、このくらい素敵な販売スタッフから買いたいと指名してくる。もちろんその際、彼女は的確な提案によって満足感をさらに高める。しかも彼女は一切妥協せず、いいと思ったものはトータルコーディネートで堂々とすすめる。なぜなら、お客様とのこれまでの関係から、お客様以上に、お客様がどうすればその服を着られる場面で最高になるかを理解しているという自負があるからである。

よくスタッフから、「店長は記憶力がいいですね」と言われるそうだが、彼女曰く特別に良いわけではなく、意識をしながら自分の記憶に刻んでいるという。それはある種トレーニングである。しかし、そういうトレーニングを日々の中で意識してやり続けているかいないかは、最終的には大きな違いになる。意識だけではなく、コンディションも大切であり、それを整えて接客に臨む姿勢なくしては不可能だという。早い段階から、「お客様とは一期一会であり、やり直しはできない」と接客をとらえ、その気持ちが一切色あせることなく何年も継続できていること自体が、大きなスキルや結果の違いに直結している。言い換えれば、やはりそういう心構えや努力は必ずお客様に伝わると言うことである。お客様は「プロを見抜く目」を持っており、その目はどんどん磨かれている。そういう厳しい時代である。
最後にそのラグジュアリーブランド店長が一番悔しそうに私に語ってくれた思いがとても印象に残った。 
「ある若いスタッフが、仕事と家庭の両立で悩んでいました。『自分としてはこの仕事が好きだし、もっと上を目指したいと思っている。しかし、家族からは“そんな仕事は誰でも簡単にできる仕事だから、今辞めたって、またやりたいと思えばいつでもできるよ”と言われた。安心させようという気持ちもあったと思うが、複雑だった。』と言われました。私はとても悲しい思いをしました。なぜなら、ここまでやっても接客・販売という仕事への認知はまだまだその程度なのかと。しかし、だからこそ、私たちはしっかりプロの仕事を確立すると共に、スタッフに伝えていかなくてはならないという思いを強くしました。一人でも多くの人がプロ意識を持って研究を続ければ、必ず世の中の認知も変わります。この仕事がどれだけ難しいか、そして、その分やりがいがあるのかを理解してもらうという目標を持ってさらに頑張ります。
いつお会いしても好奇心たっぷりの大きな目で見つめられると、私自身つい心を開いてしまう。単なる売り方だけでない素晴らしい人間教育も行っている店長である。

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